中途採用を成功に導く前職調査 (バックグラウンドチェック)!メリットやデメリットを詳しく解説
2022/08/02
掲載日:2019/06/27 更新日:2022/08/02
人材の採用には費用がかかります。そのため、「コストをかけて採用した人材が期待外れだった」「想定と違っていた」という事態は避けたいものです。しかし、面接や履歴書から推し量れる情報には限度があります。経歴詐称の可能性もゼロではありません。そこで企業側がとるべき選択肢としておすすめしたいのが前職調査(バックグラウンドチェック)です。
目次
中途採用をするなら、企業としては能力・人望ともにしっかりとした人材を選びたいところ。
中途採用をするうえで実施する前職調査ですが、同義に使われる言葉にリファレンスチェックというものがあります。
この2つは、どちらも中途採用選考時に、応募者の経歴を確認するために実施するという点において共通しているため、混同されることも少なくありません。まずは両者の定義について再確認しましょう。
前職調査とは、中途採用の選考過程において、応募者の経歴や申告内容に間違いがないかを採用側の企業が事実確認するための調査です。前職調査を含む採用調査、経歴調査の調査内容には、学歴や職歴、資格の保持状況以外にも、前職における勤務態度、業務遂行能力や退職理由、不法行為等で報道された記録やネガティブな風評の有無、コンプライアンス的に危ぶまれる素行や、反社会的勢力との交友関係の有無なども含まれることがあります。
かつては個人情報保護に対する意識が薄かったため、これらの情報は容易に得ることができました。
しかし、社会の意識の変化や個人情報保護法の成立により、現在では調査実施のハードルは高くなってきています。
ただし、金融や警備などの採用に際して慎重さが求められる業界や、部長クラス以上の重要なポジションを想定した採用では、依然として採用プロセスに前職調査が組み込まれていることもあります。
このようなケースでは、企業の人事部が直接調査を行うこともあれば、プロの調査会社や興信所に調査を依頼するケースも見られます。
リファレンスチェックとは、身元保証や信用照会を意味する英単語"reference"と、照合、査証という意味の英単語"check"により構成される用語で、中途採用をする企業が面接者に対して実施する、前職調査の枠組みに含まれる調査のことです。前職調査が決定的な裏付けとしての役割も担うのに対し、リファレンスチェックは必ずしも決定的な事実の調査を目的としているわけではありません。
リファレンスチェックの目的は、応募者についてよく知る前職の関係者から、仕事面や人格面での意見を得ることで、それを選考の参考材料として活用することです。どちらかというと業務遂行能力や人柄の保証を求めるというニュアンスが強いといえるでしょう。
前職調査でも、前職関係者に客観的な意見を聴取することはありますが、その場合は、企業側の担当者が人物情報の聴取先を選定します。一方、リファレンスチェックでは、情報聴取先である推薦者リストを応募者自らが提示し、採用企業側はその中から聴取先を選定するという点で大きな違いがあります。
リファレンスチェックは、直接訪問や電話での聴取だけでなく、リファレンスレターと呼ばれる推薦状の提出という形式でも実施され、履歴書などの記載どおりに在籍していたかを確認するというよりはビジネス上の評価に重きを置いた調査方法だといえます。
リファレンスチェックがスタンダードとなっている欧米企業では、スキルアップを目的とした転職がポジティブに捉えられることもあり、上司や同僚も積極的に推薦に応じることが多いようです。
近年では日本でも外資系企業を中心に行われることが増えてきています。
株式会社マイナビ「中途採用状況調査2022年版 (2021年実績)」によると、企業における年間平均採用費用は、人材紹介に関するものが316.4万円、求人広告に関するものが127.7万円でした。
このうち企業の従業員数規模別に見てみると、従業員数50人未満の企業では人材紹介77.8万円、求人広告40.1万円、51人以上300人未満の企業では人材紹介259.6万円、求人広告53.6万円。従業員数301人以上1000人未満の企業では人材紹介183.5万円、求人広告95.0万円。従業員数1001人以上の企業では人材紹介530.2万円、求人広告258.9万円と、企業規模が拡大すると、より中途採用にかかる金額も上がる傾向にあることがわかります。つまり、それだけコストのかかっている大企業では、より慎重に採用をする必要があると言えます。また、2021年に中途採用を行ったと回答した企業のうち、入社した中途社員についての満足度の平均値を見ると、質・量ともに満足したとの回答は19.6%、質的には満足だが量的に不満という回答は31.3%でした。そして質的には不満だが量的には満足との回答は27.1%あり、質・量ともに不満だという回答は22.0%となっています。(2022/08/02情報更新)
このように、決して安くはないコストをかけて人材を採用しても、人材の質において満足を得られるとは限りません。人材の質に不満を持つケースとしては、「職場や会社の雰囲気と合わなかった」「期待したほどの戦力にならなかった」または「雇用後に経歴詐称が発覚した」などが想定されます。多少の期待外れ程度ならともかく、何らかのトラブルを引き起こされた場合、採用コスト以上の損失が会社に生じることを覚悟しなくてはなりません。
ネガティブな情報が発覚した時点で、企業側としてはできれば解雇したいものですが、実際そのようにはいきません。経営者による解雇には、労働基準法などの各種労働法によって厳しく制限が設けられているからです。解雇によって生活基盤が左右される弱い立場にある労働者に対し、強い権力を持つ経営者側が一方的に労働契約を終了させた場合、不当解雇として提訴されることも十分に考えられます。裁判において、会社側が解雇の正当性を主張するには、解雇に至る十分な理由とその根拠を示さなければなりません。そのためには、かなりの時間的・人的コストが必要となりますが、そこまでしても確実に主張が通るとは言い切れないうえ、敗訴すれば解雇無効や職場復帰を命じられる可能性もあるのです。また、経済的解決を図るための損失計上だけならともかく、社会的なイメージダウンは会社にとって簡単には取り戻すことのできない大きなダメージとなります。
このような事態を未然に防ぐため、問題のある従業員はできるだけ雇用する前の選考過程でふるいにかけておくべきです。自身に不利な情報を誤魔化したり詐称したりするような人物ほど、面接では巧みに振る舞うこともあり、なかなか対処しきれないのが実情ではありますが、企業は自らを守る必要があります。前職調査は、自衛策として企業が考慮すべき選択肢です。
申告情報に虚偽がある人物は、雇用後も不利な情報の隠蔽や不正に手を染めるトラブル因子になり得ます。そこで、そのような人物のスクリーニングに、申告内容と事実を照らし合わせる前職調査が効果を発揮するわけです。もちろん調査の結果、ネガティブな情報が発覚することは稀で、大多数は応募者の信頼性を保証する結果となり、採用への大きなプラス材料となります。
しかし、応募者の個人情報に踏み込む前職調査は、個人情報保護の観点から違法とされる可能性はないのでしょうか。
結論からいうと、前職調査は違法ではありません。
厚生労働省は公正な採用選考の為、採用選考時に配慮すべき事項として、以下を挙げています。
1.本人に責任のない事項の把握
・本籍・出生地に関すること
・家族に関する事(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)
・住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)
・生活環境・家庭環境などに関すること
2.本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)の把握
・宗教に関すること
・支持政党に関すること
・人生観、生活信条に関すること
・尊敬する人物に関すること
・思想に関すること
・労働組合に関する情報(加入状況や活動歴など)、学生運動など社会運動に関すること
・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
3.採用選考の方法
・身元調査などの実施
・合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施
引用:「厚生労働省 公正な採用選考の基本 (3)採用選考時に配慮すべき事項」
これらの事項を面接で尋ねたり、履歴書に記入させたりすること、また身辺調査の情報取得方法に違法性があれば就職差別につながる恐れがります。(2022/08/02追記)
個人情報保護法第23条では、個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に「提供」してはならないと定めています。
つまり、個人情報保護法は個人データの「提供」は禁じられていますが、前職調査自体やその業務を「委託」することは禁止されていません。ただし、調査の内容が要配慮個人情報に及ぶ場合は違法と認められることがあります(警備業においては、警備業法第3条に準ずる)。
そのため、前職調査を実施する際は、問い合わせる内容をよく吟味することが必要です。
※要配慮個人情報とは
本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう。
引用:「個人情報の保護に関する法律」第2条3項より一部抜粋
また、無断で調査を行ったことで、応募者との信頼関係が損なわれる可能性もあります。
そのため、前職調査を実施する大前提として、面接時などに応募者本人と「個人情報取扱同意書(採用応募者用)」などを交わしておくことをおすすめします。誰でも同意なしに自分の個人情報を見られるのは嫌なものです。
個人情報の取り扱いについて、応募者の個人情報を採用選考上必要な範囲内で適正かつ適法な方法によって取得する旨を記載して同意を得ておけば、当人も前職調査について得心してくれるでしょう。
近年、書面や口頭による同意を得る方法の他、サイト画面に「同意して送信する」などのボタンを設置して、インターネット上で同意を取る企業も増えてきています。その際は、個人情報の利用目的について、応募者本人に確認してもらう必要があります。方法として、「利用目的に同意する」のチェック欄をクリックしなければ送信ボタンが押せないように設定したり、個人情報の利用目的を最後までスクロールしなければ押せないように設定するなどし対応を行っています。また、情報漏えいやデータ改ざんなどに備えて、暗号化(SSL化)するなどのセキュリティ対策を取っておくことも重要でしょう。(2022/08/02追記)
中途採用におけるリスク対策として、前職調査は有用な手段だと紹介してきましたが、マイナス面はないのでしょうか。ここで前職調査のメリットとデメリットを整理しておきましょう。
前職調査を実施するもっとも大きなメリットとして、これまでご紹介してきたように、事実と異なる申告をしている応募者、リスク因子を採用前に発見できるという点があげられます。面接・面談で嘘を見抜くことも可能ですが、担当者の経験や力量による部分が多く、判断にばらつきが出てしまいます。
これでは一定の採用基準を維持することが難しく、人事管理者の負担増加にもつながってしまいます。
その点、申告内容の事実確認として一律に前職調査を行うのであれば、その調査結果は客観的で公正な選択と判断により役立つことでしょう。
また、インターネットが普及したことに加え、新型コロナウィルスの脅威によって、WEB面接を導入する企業が増えてきています。先述の「中途採用状況調査2022年版 (2021年実績)」によると、採用面接の実施手法は「100%WEBのみ」8.5%を含め、4割強がWEB面接を中心に行う傾向、また、対面面接の実施割合についても「100%対面のみ」32.5%を含め、4割強とWEB面接と同程度となっています。WEB面接を全く取り入れていない企業もありますが、今後の面接手法の割合において、「WEBのみ/増やす」が31.8%、「変えない」58.5%、「対面のみ/増やす」が9.7%とWEB面接がスタンダートとなっていくことは想像に難しくありません。しかし、対面での面接と比べ、「意思疎通を取るのが難しい」、「直接会ってみたら応募者の印象が違った」という声も多く、画面越しでは確認できない性格・価値観など見極めに苦労している事が伺えます。前職調査を行う事で、勤務状況がどうだったか、トラブルを起こしていないかなど、WEB面接の情報を補う、安心材料としてご利用頂けます。(2022/08/02追記)
同意を得るとはいえ、「調査」という行為は応募者との信頼関係を傷つけるのではないか、という懸念が残ることも事実です。疑ってかかりたくないという意見もあるかしれませんが、実際、虚偽申告をする応募者は存在します。基本的に前職調査は、申告内容の確認です。実直な応募者に対しての調査は確認作業とほぼ同義であり、調査結果が信頼性の裏付けとなり、採用を後押しする部分が大きくなります。
それなら、すべての人材採用において前職調査を導入すればよいのではないかと思われるかもしれません。しかし、すべての人材採用活動において無条件におすすめするわけではありません。
その理由のひとつがコスト面です。
前職調査を外部の調査会社へ依頼する場合、1件ごとに費用が発生します。
そのため、すべての候補者に対し前職調査を実施することは多額の費用がかかるため、現実的ではありません。また、依頼内容が経歴や資格の事実照合のみであるのか、職場内での人物評価などの調査まで広げるのか、などによっても費用は異なります。
以下に参考となる相場価格をご紹介すると、
① 中途採用時経歴調査:20,000円~60,000円程度
(前職における勤怠、退職理由、学齢、経歴など指定項目のみの確認)
② 中途採用時身辺調査:45,000円~80,000円程度
(経歴、人柄や素行、過去の勤怠や退職理由、生活状況など聞き込みを必要とするもの)
③ 中途採用時特殊調査:50,000円~400,000円程度
(重要なポストにある者や影響力の大きい者など、綿密に慎重を期する調査)
となっています。
調査専門機関に調査を依頼すると高額な費用がかかるというイメージがありますが、実際にはそんなことはありません。あらかじめ対象者の身元がはっきりしている採用時調査は、多くの場合、他の調査よりも料金が低めに設定されています。
調査対象を重要なポジションに限るなど、採用コストとリスクの兼ね合いを検討した上で、調査依頼をするとよいでしょう。
●前職調査のメリット・デメリット
メリット | ・事実と異なる申告をしている、もしくは、企業にとってリスク因子となりうる応募者を採用前に発見できる ・WEB面接では分かりにくい性格・価値観など前職での勤務状況、トラブルの有無などで情報を補える |
デメリット | ・応募者との信頼関係を損ねる恐れがある ・調査を外部の専門機関に依頼するとコストがかかる |
前職調査の目的は、雇用に至る前に、採用候補者の情報の裏付けをとることです。つまり内定前に行う必要があるのですが、早い段階から調査を行うことはおすすめしません。まだ入社するとも決まっていない企業に個人情報を調査される。これは応募者にとって気持ちのよいことではありません。応募者にネガティブな印象を与えることで、優秀な人材を逃してしまう可能性も否定できません。
前職調査を実施するに相応しいタイミングは最終面接の後、内定を出す前です。費用面を考慮すると、調査対象となる人数が絞り込まれたこのタイミングがベストです。
また、調査には心理的に抵抗があるという応募者でも、最終判断を目的とした調査であれば同意を得やすいというプラス材料もあります。
経営者や人事担当者の中には、前職調査のメリットを得たいけれども、予算に余裕がないので調査会社には依頼せず、自前で前職調査をできないか、と考える人もいます。
ここでは、自社で前職調査を行う場合のメリットやデメリットについて考えてみましょう。
自社で前職調査を実施する場合、最大のメリットは外部委託するコストを使わずに済むということです。特に予算が限られる中小企業にとっては大きなメリットになるでしょう。
また、自社で調査を行う場合は、デメリットもあることに留意しておく必要があります。
応募者の同意があれば、過去の勤務先に、勤怠やハラスメント関連などの問題がなかったかどうかを確認する電話調査も可能です。しかし、個人情報保護法による規制や企業内の守秘義務にかかわる部分もあり、過去の勤務先が回答を避けるケースは多々あります。
前職調査に関するノウハウを身につけていない企業においては、外部の調査会社に調査を依頼するのが一番です。コストはかかりますが、信ぴょう性の高い調査結果が得られ、採用の判断の一助にもなるでしょう。
また、調査対象が少人数だったり重要なポジションの採用でなかったりする場合には、調査内容を絞ったうえで調査会社へ依頼するとよいでしょう。そうすることでコストを抑えることができます。
必要に応じて残りの項目を自社で調査する必要もありますが、前職調査は行いたいが採用コストを抑えたい場合に適しています。
それに対し、人物評価や素行が大きな影響を与える重要ポストの採用を目的とする場合は、しっかりとしたノウハウを持つ調査会社に調査を依頼しましょう。
最終面接から内定までに時間的余裕がない場合にもおすすめです。
●前職調査を調査会社に依頼するメリット
・自社に前職調査のノウハウがなくても、しっかりとした調査結果が得られる |
・調査する内容を限定しての依頼も可能で、コストを抑えられる |
・最終面接から内定までに時間がない場合に便利 |
なお、応募者本人から同意が得られたうえでオプトアウトによる第三者提供でない限り、個人情報の収集については、改正個人情報保護法第2条3項により要配慮個人情報であることを理由に認められていません。これらの情報を取得する場合は留意する必要があります。
※昨今、人の動きが活発化していますが、「素晴らしい経歴の人材を採用したにもかかわらず、期待した様なパフォーマンスを発揮してくれない。配属した部署からも不平不満が出ており、履歴書、職務経歴書に詐称が無いか。」など、入社後の「経歴確認調査」を利用されるケースが非常に増えてきています。
しかしながら、たとえ経歴詐称があったとしても懲戒事由に該当するかどうかは、「重大な経歴の詐称」に限られると考えられており、不用意に解雇をした場合、労働者側から不当解雇として争われるなど、大きなトラブルにつながる可能性があります。自社の業務を遂行する上で妨げとなるような問題が発生する前に、入社前の採用調査を是非ご検討ください。
前職調査は、選考時の参考情報としても、雇用後のリスク軽減策としても、非常に有効な手段です。
しかし、個人情報にかかわる調査においては、法を遵守した慎重な対応が求められます。
自社で調査に取り組む前に、外部への委託を検討してみてはいかがでしょうか。
採用調査のご相談はお気軽にお寄せください
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