店舗事務所賃料値下げ交渉力でコロナ不況の困難な資金繰りを乗り切る
2020/05/11
2020年4月末、すでに“コロナ倒産”といわれる経営破綻が相次いでいます。先が見えない事業環境の元、中小企業は生き残りに向けて、具体的に何をどうすれば良いのか、特に負担が大きい店舗・事務所の賃料の見直し交渉についてはどう進めていけばよいのか、また、今回の危機が去った後の、働き方やオフィスの在り方にはどのような変化が予想されるか本記事において順に考えてまいります。
目次
4月7日、日本においても主要7都府県で緊急事態宣言が発令され、翌週には全国へ対象地域拡大に至り、感染拡大を防ぐべく多くの企業・社会活動は自粛を余儀なくされ、我々は今、未曽有の危機に直面しています。
一般に会社経営には6ヶ月先までの資金繰り (手元キャッシュ) が必要とされています。特に今般のような緊急時には取引先が突如破綻し、売上が確定していた売掛金が入金されないといったトラブルも懸念されます。資金ショート回避のため、不測の事態に備えた取引金融機関へのアプローチや、各種助成・救済制度等について確認をあらかじめ行なっておくことが必要です。
財務省が2018年に実施した法人企業統計調査では、資本金5,000万円未満の中小企業の手元キャッシュの平均は運営コストとなる固定費の2.7ヶ月分であり、業種によるバラツキも見られますが、不十分な実態が読み取れます。今回の緊急事態がどれだけ長引くか不透明な状況ですが、明確であることは、政府による緊急対策措置が次々と講じられていくとはいえ、“仮に売上が立たなくとも、毎月、固定費は確実に発生し、キャッシュは消えていく”という事実です。
固定費として一般的に最も大きなウエートを占めるものは人件費ですが、それ以外の経費の中で、どのようなものがどの程度を占めているか、月々の支出明細を確認し、理解しておくことが重要です。
人が不動産を借りる場合、賃料は収入の3割以下に抑えるのが理想的であるといわれています。では、事業をしている場合、事務所や店舗としての賃料は経費総額の何割程度に抑えるのが理想的でしょうか。事業をしていくにあたって必要となる費用のうち、毎月の金額がほぼ一定であるものとしては、事業を営む上で必要となる仕入や材料費といった売上原価の他、固定費として働く人の人件費や経費が挙げられます。製造業の場合、原材料費が大きなウエートを占める傾向にありますが、非製造業の場合、費用の中でも大きなウエートを占めるのは何といっても人件費です。ただし、生活に直結することでもあり、見直しには慎重にならざるを得ません。その次に焦点を当てるべき固定費は、やはり、オフィスの賃料でしょう。一つの目安として、皆様の事務所や店舗の賃料が月間売上の1割を超えているというような場合には、事務所移転や賃料削減交渉を検討してみることをおすすめします。オフィス賃料相場を調べるには、WEB上に無料で情報公開されているものもあります。
【参考】 オフィス賃料相場に関する確認サイト
現在の相場状況を確認したいという方に、下記の2つのサイトをご紹介します。
① オフィス相場/三鬼商事 : 空室率・賃料といった情報が毎月更新されています。
https://www.e-miki.com/market/tokyo/index.html
② 相場データ/三幸エステート : 賃料相場や変動について記載されています。
http://www.sanko-e.co.jp/data/city
既に政府は、休業要請による売上減少の影響の大きい飲食店等を中心に、テナント賃料の支払いを一定期間猶予するといった検討を開始していますが、貸主であるビルオーナーにとっても影響の大きいことでもあり、緊急的な措置は考えられるものの、恒久的な観点でのテナント救済措置の成立は難しいと予想されます。公的な救済制度に頼るのではなく、テナントが主体となって、貸主との賃料交渉を進めていくことが、コロナウイルス終息後も見据えた中長期的スタンスとして必要となるアクションではないでしょうか。
既に、新型コロナウイルスの影響によりオフィス需要にも変化が生じているようですが、新型コロナウイルスが終息した後も、テレワークが一層進むことで働く場所や時間が分散し、オフィスの存在意義・在り方自体が変わっていくと考えられます。 ICT (情報通信技術) を活用したスマートワーク、テレワークが進めば、「オフィスに必要な面積=従業者数×1人当たり面積」という今の常識は変わり、従来と比べよりコンパクトなオフィスが当たり前となる時代が近づいています。
ここでは、賃料の支払先であるビルオーナーの腹の底を理解したうえで、具体的な賃料交渉術をお伝えします。
「いずれ1人当たりの専用オフィススペースは半減すると予想している。余った床をどうしたら借りてもらえるのか。できることは何でも試してみるしかない」 大手オフィス賃貸会社はこのように語り、危機感をあらわにしています。
2021年へ延期となった東京オリンピックに向けて大規模オフィスビルの建設が進められてきた結果、すでにオフィスの大量供給が始まっていますが、そこへ新型コロナウイルスによる未曽有の経済危機が到来し、入居予定であった企業がテレワーク化を推進する動きが重なり、オフィス需要の伸び悩みは避けられません。
これからのオフィスは、立地や賃料に加え、起業・新事業への対応、生産性向上、ワーク・ライフ・バランス実現などに貢献できるかどうかが重要になると思われます。国土交通省も、2017年より「働き方改革を支える今後の不動産のあり方検討会」を開催し、働き方改革やIoT、AI、RPAなどのイノベーションがもたらす不動産市場の構造変化への対応策について検討を実施し、定期報告が実施されています。しかしながら多くのビルオーナーにとって、こうしたニーズを取り込み設備投資を行なうことは資金的にも大きな負担となるもので、一方でテレワークが推進されテナントのニーズ総量は縮小傾向にあるという、まさに生き残りをかけた競争の只中に突入しています。
多くの中小ビルオーナーの本音は、以下のようなものでしょう。
●「昔から長年入っているテナントだから、少々賃料は割高だが、
このまま黙って何とか入居を続けてもらおう」
●「ビルの建設コストの回収・支払だけで手一杯なのに、
新たな設備投資なんてとんでもない。」
●「老朽化しているし、管理状態も良くない。
今のテナントが退去したら、その先は一体どうすればよいのか」
こうしたオフィス環境の変化やオーナーの本音について理解のうえ、未曽有の大不況を乗り切るために固定費であるオフィス賃料の減額交渉を進めていくには具体的にどうしたら良いのでしょうか。
それでは、不動産関連の知識やノウハウが無いという経営者の方であっても是非心得ておきたい賃料見直しに向けた交渉の進め方について、以下ご説明します。
特に何年間もの長期間に渡って賃料の見直しがなされていない場合、相場と実際の支払額の間に大きな乖離があるケースも見られます。
ビルオーナーにとっても頭の痛い賃料改定を成功に結び付けるため、入念に準備をしたうえで交渉を申入れましょう。
何といってもまずは、現在のオフィスの適正賃料を査定することから始めます。査定の方法には、以下3つがあります。
① インターネットサイトを使い、自前で探す…参考)オフィス賃料相場に関する確認サイト
② 不動産業者へ、「今と同じくらいのオフィスを探してほしい」と依頼し、近隣・類似物件の賃料を知る
③ 調査会社へ依頼する
賃料査定には、インターネットサイト等で近隣オフィスの募集賃料を調べることでも対処することが出来ますが、実際の契約賃料と募集時の賃料が乖離しているケースもよくあることです。
また、不動産業者へ相談することで、タイムリーに空き情報や相場観を得ることが出来ますが、不動産業者も商売であり、一旦問い合わせると、その後しつこく営業を受けるケースも考えられます。
その他、調査費用が発生しますが、オフィス専門に賃料査定を実施している業者へ依頼する方法があります。
交渉の結果、どこまで下がれば良しとするのか、落としどころを予め設定しておくことが重要です。
また、第1希望と第2希望と、優先順位を付けて条件を設定しておくこともポイントとなります。
仮に第1希望が通らなかった場合に速やかに第2を提案する、希望通りに賃料が下がらない場合の代替プランは「面積縮小」か「オフィス移転」か、交渉期限はどうするかなど、よく考えれば当たり前のようなことも、整理して条件として設定しておくことで、神経戦とでもいうべき交渉において、心理的にもゆとりが生まれます。
次にいよいよ、具体的な交渉条件を設定し、実際の交渉に入ります。
ここからはケースに応じて進め方がかなり異なるうえ、難易度も高まりますが、交渉に当たって心得ておきたい賃料削減を導くポイントについてご説明します。
[交渉のポイント1] ビルオーナー (以下、オーナー) に代わるPM会社を味方にする
一般的にオーナーの代理として、PM (プロパティ・マネジメント) 会社が介在しているのが一般的です。PM会社はオーナーより委託され、ビル全体のテナント募集をはじめ賃貸管理業務全般を担っています。PM会社にとっては、テナントからの賃料削減交渉は頭の痛い問題です。申入れをしてものらりくらりとかわされたりして、交渉が進まないこともよくあることです。
ここで賃料削減だけでなく、最悪のパターンである撤退まで検討する可能性が高まっていることを伝えると、PM会社とオーナーは真剣に検討に乗ってきます。撤退でないとわかれば、オーナーにも心理的な余裕が生まれ、テナントの経営状態の急変を鑑み、今後の経営改善を応援しようとする意識も生まれ、協力的な姿勢を引き出すことも期待出来ます。
固定費の低減が避けられないことを真摯に伝え、オーナー説得に向けてPM会社に上手く協力してもらうことが賃料削減のポイントの一つです。
[交渉のポイント2] オフィスからの撤退でなく、必要面積の縮小を交渉のポイントとする
テレワークが普及するにつれて、必要となるオフィス面積は小さくなっていくことは自然な傾向です。
撤退ではなく、オフォスが余剰となっている現実への対処を交渉の軸とすることで、オーナーおよびPM会社と一緒に、いかに余剰となったスペースを有効活用していくか、余剰スペースに対して次のテナントをうまく誘致するにはどのようなレイアウト変更が好ましいか等、利害の異なる関係者が一緒に考え協力していくことで、交渉を円滑に進めていくことが可能となります。
前述したオーナーの本音を理解し、オーナーとテナントが対立するのでなく、オーナーに歩み寄る真摯な姿勢を伝えることが出来れば、例えば、賃料ではこの金額しか減額出来ないが、代わりにフロアの清掃費用や共益費といった面でのコスト削減を引き出すといったこともありえます。
余剰となったオフィスの有効活用についてテナント側からもオーナーに協力的な姿勢を見せ、共に考えていくことで、お互いにWIN-WINの関係構築にも繋がります。
[交渉のポイント3] 賃料減額に向けたストーリーの構築
今回のような新型コロナウイルス蔓延といった不測の事態による売上急減と、いつ収束するかわからないという不透明な状況および今後のオフィス需給環境の変化は、テナントとして入居する企業の経営者だけでなく、オーナーにとっても大きなリスクをもたらすものです。
そのため、近隣のオフィス賃料の最新相場といったデータを揃えて決着点についてあらかじめ探っておき、賃料交渉のストーリーを構築し、具体的な金額を用いて理解を得ていくことが必要です。
【 ストーリーA 】 単純賃料減額・・・現行賃料の●%、または●●円の削減
【 ストーリーB 】 期間限定減額・・・●ヶ月限定で現行賃料の●%を削減
【 ストーリーC 】 オフィスの一部解約による減額・・・面積に応じて●%、または●●円の削減
[交渉のポイント4] 2週間での回答受領を目指す
賃料減額交渉においては、オーナーへの申入れから2週間を目安に、一旦回答を得ることが目標です。
理由として、①早期の固定費削減は待ったなしの事態であること、②経営者として企業経営に対する責任感のある真摯な姿勢を示す機会であること、③交渉が長期間に渡るとその間に前提であった状況が変化してしまい、協力的な回答を得られる可能性が低下することも生じ得ることが考えられます。
私たちの働き方、オフィスを取り巻く環境は急速に変化しています。
オーナー、テナントとして入居する企業、双方にとって最適なオフィスの在り方を探りながら、この機会にオフィス賃料の見直しを実施してはいかがでしょうか。
~ICT (情報通信技術) が変える未来の働き方~
テレビ会議システムに代表されるICTの進化といった技術的な面だけでなく、日本社会が直面する労働力人口の減少、働き方改革の推進といった社会的課題に対処するうえでも、ICTを欠かすことは出来ません。高齢の方、子育てから復帰した方、配偶者の転勤に伴い転居が避けられない方、介護といった理由で働ける時間に制限がある方など、今後、労働力の減少を迎える時代においてノウハウがあり企業が活用したいリソース (資源) は数多く存在します。
こうした貴重なリソースを活用するため、ICTを駆使した働き方であるテレワークの更なる推進がソリューション (解決策) の一つになり得るのではないでしょうか。これまでのように新卒一括採用で入社し、毎日決まったオフィスへ出勤し、定年退職まで働くといった働き方、ライフスタイル自体が大きく変わっていくものと想像されます。
さらに、人がデスクワークで処理してきた定型業務を自動化するRPA (ロボティックス・プロセス・オートメーション) の導入も近年本格化しており、定型業務を処理していた人のスペースも不要になります。今後、IoT (モノのインターネット) やAI (人工知能) が本格的に実用化されるようになれば、働き方はさらに変化していくでしょう。
~テレワーク普及後のオフィス~
ICTを活用した場所を問わない働き方「スマートワーク」は、元々働き方改革の手段で注目されていた考え方ですが、新たな働き方として定着、拡大していく動きが明らかになってきています。
テレワークの導入率は、日本の19% (2019年総務省通信利用動向調査) に対して、アメリカ80%、イギリス40%となっていますが、今回の新型コロナウイルス対応では日本の大手企業も43% (本年3月調査) へと急上昇しています。
タブレットやスマートフォンといったモバイル機器が普及し、光回線やWiFiエリアの拡大といった通信環境が充実し、これらICTツールを使って 電車内やカフェなどで仕事をする姿は今や珍しくない光景となってきています。
こうした変化は、立地や面積といったオフィス戦略にも大きな影響を与えると想定されます。
企業にとって、オフィス立地やビルの選択は企業ブランドや信用力を示す一つの物差しでもあり、オフィスを選定する条件の中でも、立地は特に重視される条件として扱われてきました。
また、オフィスの必要面積は【従業者数×1人当たり面積】として算定されていました。
新型コロナウイルスが終息した後も、テレワークが一層進むことで働く場所や時間が分散し、オフィスの在り方自体が変わっていくと思われます。
~テレワークは一層普及が進み、オフィスの必要面積は縮小する~
各国は大規模な都市封鎖 (ロックダウン) を実施のうえ、英知を結集してこれまでに前例の無いあらゆる政策を総動員しながら、目に見えない敵との“ウイルス戦争”の只中にあります。
緊急事態を脱するには人の接触を8割減らすことが必要とされており、国民全体に協力が求められています。中でもビジネスを営むうえで拠点となるオフィスへ出勤せず、在宅のままテレワークで対応することが推奨されていることは、今後の働き方を急速かつ革新的に変えることに繋がると思われます。
これらの結果から言えることは、全ての業種・職種に当てはまるものではないが、企業、従業員ともにテレワークの普及と活用は一層進んでいくのではないかということです。
そして、我々が今直面している緊急事態が去った後もこのトレンドは変わることはなく、むしろ、緊急事態におけるテレワークの効果について検証され、テレワークがしやすい環境になっていくと思われます。
併せて、働く場所や時間が分散することで、オフィスの在り方自体が変わっていくのではないかと考えられます。
この緊急事態をきっかけに、自社で必要となるオフィス面積および適正なオフィス賃料についても併せて検討されてはいかがでしょうか。
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